初めての収入

 なんと、イギリスに来て初めて
働いた報酬としてポンドをいただいた。
1年以上生活して、恥ずかしながら初めての収入。
それも、カリグラファーとしての仕事での。

お昼前、突然電話がかかってきた。
知らない男性が
「招待状の名前を書いてほしいんだ。あなたは
カリグラファーですよね?」
インターネットで探していて、あるカリグラファーに行きあたり、
その人から私の番号を聞いたという。
そのカリグラファーの名前は覚えていないと言う。
「とにかく、急いでいるので今日そちらに伺います。」
2時間後、その男性は私のフラットに、
32名分の名前のリストと印刷された招待状を持ってやってきた。
「今日の夜か明日の朝までにお願いします。」

家にカリグラフィーのお客を招くのはもちろん初めて。
書体を選んでもらい
(イタリックとカッパープレートのサンプルを見せる)
それぞれの値段を示す。
以前知り合いのカリグラファーに相場を尋ねていたのが
役に立った。

その人はすぐにキャッシュで払ってくれた。
まだ仕事が出来てもいないのに。

あの『マスター・オブ・カリグラファー』
Paul Antonioは相場よりもかなり高めだ。
彼は1単語ごとに計算していた。
しかし、その計算がかなり理にかなっていると
感じたのは仕事を引き受けて
いざ書き始めた時だった。

この招待状、異常に名前が長い。
というのも、1人分の名前だけの行はほとんどなくて、
2人か3人分の名前を1行に書かなくてはいけなかった。
依頼者の友達のお父さんの80歳の誕生パーティーとかで、
仕事で忙しい友達に代わってやってあげているという。
1件3ポンドで引き受けたのだが、
1行に夫婦二人、または姉妹兄弟の名前が2人や3人分
一緒に書かれていた。
長いのは1行に28文字もあった。
行の高さは10ミリの幅しかなく、Xハイト2,5ミリの中に
慣れないカッパープレートで書くのは
至難の業だった。
甘く見ていた!と気付いた時は夜の12時を回っていた。

依頼のあった招待状。
この写真、80歳のお父さんの
若いころだろうか。
まるで映画俳優のようだ。

暗い部屋で、小さな文字を書く作業はとても疲れた。
結局作業を始めて書き終わるまで合計13時間もかかってしまった!

翌日のお昼過ぎ、その男性は引き取りに来てくれた。
リストの名前と見比べてチェックしてもらう。
"Stunning!"
などと言っている横でドキドキしながらその様子を見ていた。
書き間違いもなく、満足してお礼の言葉を述べ帰っていった。
正直ほっとした。

合計96ポンドの収入。
しかし、とっても重たい96ポンドだ。
なぜかと言うと、時給に換算すると1時間あたり
7ポンドちょっと。
Ann Hechleが週に2回頼んでいる庭師は
時給15ポンドなのだ。

いや、カリグラファーは時給を考えて仕事はしないのだ。

芸は身を助く、の言葉を実感した日だった。








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  • 2016/05/12 6:56 PM
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